- ホーム
- 警告ラベル安全規格講座
- 第17回 EU機械規則を理解するための基礎知識
警告ラベル安全規格講座
第17回 EU機械規則を理解するための基礎知識
第16回では、新たなEU製造物責任指令(PLD:Directive (EU) 2024/2853)と、警告ラベルの根拠となる残留リスク管理について説明しました。第17回と第18回では、2027年1月20日から適用されるEU機械規則(Regulation (EU) 2023/1230。以下「機械規則」)を取り上げます。
ニューアプローチからNLF、そして機械規則へ
現行の機械指令では、指令の条項を加盟国の国内法に反映する必要がありましたが、規則化することで国内法化が不要となり、各加盟国に直接適用されます。今回の改正では、NLF(New Legislative Framework)との整合や、デジタル技術への対応も進められました。機械規則を読むと、人の健康と安全を守るために機械が満たすべき条件を定めた必須健康安全要求(EHSR:Essential Health and Safety Requirements)、整合規格、適合性評価、CEマーキング、市場監視など、さまざまな制度が互いに関係していることが分かります。 これらは機械規則で初めて導入されたものではありません。 EUが製品を加盟国間で自由に流通させながら、安全性を確保するために整備してきた制度です。
第17回では、EU製品安全制度の歩みをたどり、ニューアプローチ、グローバルアプローチ、NLF、指令と規則の違い、機械規則でも変わらない安全設計の基本を説明します。
EU製品安全制度が必要になった理由
EUの単一市場では、加盟国間で物を自由に流通させることが基本となります。しかし、各国が製品の構造、試験方法、表示などについて異なる法規制を設けてしまうと、メーカーは国ごとに仕様を変更したり、異なる手続きに対応する必要があります。
そこでEUは、加盟国に共通する製品要求を整備してきました。初期の制度では、法令の中に細かな技術仕様まで書き込む方法(オールドアプローチ)が取られていましたが、技術の進歩に合わせて法令を改正し続けることは容易ではありませんでした。
この課題に対応したものが、1985年のニューアプローチです。
ニューアプローチとは
ニューアプローチでは、規則や指令といった法令が定める内容を、安全性などの必須要求事項に絞ります。その要求事項を満たすための具体的な技術仕様は、欧州規格(EN規格)として制定されます。このうち、規則や指令の要求事項に対応するものとして引用されるEN規格を、整合規格といいます。EN規格には、ISOやIECなどの国際規格を採用したものと、欧州独自に制定されたものがあります。
例えば、規則や指令では、「人が危険な可動部に触れないようにする」といった安全を達成するための要求を定義します。一方、規格では、必要な安全距離やガードの構造など、規則や指令の要求を満たすための具体的な方法を示します。 具体的な方法を規格に委ねることで、新しい技術を取り入れやすくなります。
製品が整合規格を満たしていれば、その規格の対象範囲については規則や指令の要求事項を満たしていると推定されます。この仕組みを適合性の推定といいます。
グローバルアプローチとCEマーキング
規則や指令で製品の必須要求事項を定めても、加盟国や製品分野によって適合性の評価方法が大きく異なれば、制度を一貫して運用できません。そこで1989年のグローバルアプローチでは、試験、認証、品質保証などによって適合性を評価するための枠組みが整備されました。
適合性評価は、製品が規則や指令の要求事項を満たしていることを確認する手続きです。製品の種類とリスクに応じて、メーカー自身が確認する方法(自己宣言)や、EU加盟国が指定して欧州委員会へ通知した第三者認証機関(通知機関:Notified Body)が関与する方法(第三者認証)などが用いられます。
メーカーは、CEマーキングによって、規則や指令の要求事項に製品が適合していることを示します。また、CEマーキングは、必ずしも第三者認証機関が製品の安全性を保証するものではありません。自己宣言の場合は、メーカー自身が製品に適用すべき規則や指令を特定し、その要求事項に対応する整合規格を確認した上で、リスクアセスメント、設計、試験、技術文書の作成、適合性評価を行います。要求事項への適合を確認した後、EU適合宣言書(機械指令ではEC適合宣言書)を作成して署名し、製品本体にCEマークを表示します。第三者認証機関が関与する場合は、規則や指令で定められた適合性評価の手続きに従い、その機関が製品の試験や審査、品質管理体制の評価などを行います。いずれの場合でも、EU適合宣言書を作成することにより、メーカーは製品が規則や指令に適合しているという責任を負います。
NLFで整えられた共通ルール
2008年にNLF(New Legislative Framework)が採択されました。日本語では「新しい法的枠組み」などと訳されます。
製品の安全性を確保するためには、製造時の適合性評価だけでは不十分です。輸入・流通の段階でも規則や指令に適合した製品だけが取り扱われ、市場に出た後で不適合が見つかった場合は、それを是正する仕組みが必要です。そのために、NLFは、製造から輸入、流通、市場監視までを通じて、誰が何に責任を負い、どのような手続きで適合性評価するのかを、製品分野を越えた共通ルールとして整えた枠組みです。メーカーや輸入者などの役割と義務を明確にし、製品のトレーサビリティー、適合性評価、CEマーキング、市場監視などの制度を整理しました。
NLFでは、製品の製造や流通に関わるメーカー、認定代理人、輸入者、流通業者を、経済事業者と呼びます。EU域外で製造された製品をEU市場へ投入する輸入者や、その製品を流通させる流通業者にも、それぞれの義務が定義されています。
| 経済事業者 | 定義 | 主な役割 |
|---|---|---|
|
メーカー (製造業者) Manufacturer |
自ら製造するか、設計や製造を委託し、自社の名称や商標で製品を市場に出す事業者です。 |
製品を規則や指令の要求事項に適合させ、適合性評価を行います。 技術文書とEU適合宣言書を作成して保管し、CEマークを表示します。 |
|
認定代理人 Authorised Representative |
EU域内に所在し、メーカーから書面で委任された業務を代行する個人または法人です。 | 委任された範囲で文書の保管や当局への提示を行い、リスクを取り除く措置に協力します。 |
|
輸入業者 Importer |
EU域内に所在し、EU域外からの製品を輸入する事業者です。 | 製品が規則や指令に適合していることを確認した上でEU適合宣言書の写しを保管し、当局の求めに応じて技術文書を提示できるようにします。 |
|
流通業者 Distributor |
メーカーと輸入者以外で、製品を市場に供給する卸売業者や小売業者などです。 | 製品が規則や指令に適合していることを確認した上で、保管や輸送で適合性を損なわないようにし、不適合が疑われる製品は是正されるまで供給を控えます。 |
具体的な義務や文書の保管期間は、製品に適用される規則や指令で異なります。
NLFは、全ての製品要求を一つの規則や指令にまとめるものではありません。機械、電気機器、保護具などの分野ごとに制定される規則や指令を、共通のフォーマットや定義と手続きで組み立てるための枠組みです。機械規則も、この枠組みに合わせて用語、経済事業者の義務、適合性評価、市場監視などを整理しています。
指令と規則の違い
機械に関するEU法は、機械指令(Directive 2006/42/EC)から機械規則(Regulation(EU) 2023/1230)へ変わります。指令(Directive)と規則(Regulation)の違いは、名称だけではありません。
EU機能条約 第288条(当サイト訳、一部抜粋)
規則は、その全ての部分について拘束力を持ち、全ての加盟国へ直接適用される。
指令は、達成すべき結果について、対象となる各加盟国を拘束するが、その形式および方法は各国の機関に委ねる。
EU機能条約 第288条(英語原文、全文)
Article 288
(ex Article 249 TEC)
To exercise the Union’s competences, the institutions shall adopt regulations, directives, decisions, recommendations and opinions.
A regulation shall have general application. It shall be binding in its entirety and directly applicable in all Member States.
A directive shall be binding, as to the result to be achieved, upon each Member State to which it is addressed, but shall leave to the national authorities the choice of form and methods.
A decision shall be binding in its entirety. A decision which specifies those to whom it is addressed shall be binding only on them.
Recommendations and opinions shall have no binding force.
※ 英語原文は第288条の全文を掲載し、当サイト訳で省略した箇所に取り消し線を引いています。
両者の違いを実務に関係する範囲で整理すると、次のようになります。
| 項目 | 指令(Directive) | 規則(Regulation) |
|---|---|---|
| 加盟国での扱い | 各国が国内法へ取り入れる | 加盟国で直接適用される |
| 拘束する対象 | 対象となる加盟国 | 加盟国および適用対象となる個人または法人 |
| 守るべき内容 | 指令で定義された達成すべき結果について拘束力を持ち、達成する方法については各国が決める | 規則に記載された全ての条文が拘束力を持ち、各国で直接適用される |
| 制度運用 | 国内法への取り入れ方によって差が生じる可能性がある | 共通の条文を各加盟国で適用する |
CEマークを表示するための手続き
メーカーは、製品に適用される規則や指令を確認して技術文書を作成し、適合性評価を行った上で、CEマークを表示します。機械の場合、主な作業は次のように整理できます。
| 段階 | 主な作業 |
|---|---|
| 1. 適用規則や指令と要求事項を確認する | 製品の用途や仕様から、適用される規則や指令を特定します。複数の規則や指令が適用される場合は、それぞれの要求事項を確認します。 |
| 2. 適合性評価の方法を決める | 規則や指令で定められた手続きを確認し、メーカー自身で評価できるか、第三者認証機関の関与が必要かを判断します。 |
| 3. 設計と検証を進める | リスクアセスメントを行い、整合規格などを用いて安全方策を設計に反映します。試験や計算で要求事項への適合を検証し、残留リスクを警告ラベルや取扱説明書に記載します。 |
| 4. 技術文書をまとめる | 設計図、リスクアセスメントの結果、適用した規格、試験結果、取扱説明書など、適合を裏付ける資料を整理します。選択した適合性評価手続きに従い、必要な評価を完了します。 |
| 5. EU適合宣言書を作成する | 適用される規則や指令の要求事項を満たしていることを確認し、メーカーの責任でEU適合宣言書を作成して署名します。 |
| 6. CEマークを表示する | 適用される規則や指令に従い、所定の形状や寸法、表示位置などの条件を満たすようにCEマークを表示します。 |
設計、検証、技術文書の作成は、必要に応じて並行して進めます。検証で不適合が見つかった場合は、設計や安全方策を見直します。
なぜ機械指令から機械規則へ移行するのか
機械指令は、機械安全の法的な枠組みとして長く使われてきました。しかし、制定後にNLFが整備されたため、用語、経済事業者の義務、適合性評価、市場監視などをNLFと揃える必要がありました。指令では、各国が国内法へ取り入れる方法によって、制度の運用に違いが生じる可能性があります。この違いを抑え、EU域内で共通の条文を直接適用することも、規則へ移行する理由です。
加えて、機械を取り巻く技術も変化しています。ネットワーク接続、安全機能を担うソフトウエア、AIの学習による動作の変化などが、機械の安全性に影響するようになりました。取扱説明書やEU適合宣言書をデジタル形式で提供するための条件も整理されました。
機械規則への移行には、NLFとの整合、加盟国間での統一的な適用、デジタル技術が機械安全へ及ぼす影響への対応、情報提供方法の整備という複数の理由があります。「指令という名称を規則へ変えただけ」ではありません。
機械規則でも引き継がれる安全設計
法形式が指令から規則へ変わっても、リスクアセスメントに基づいて安全設計を行うという基本は引き継がれます。
2027年1月20日以降にEU市場へ投入または使用開始する機械は、機械指令に適合していた設計であっても、機械規則への適合を確認する必要があります。従来のリスクアセスメント、設計、警告ラベル、技術文書を基礎として、追加または明確化された要求事項との差を確認します。
第18回では、機械規則で追加または明確化された要求事項と、警告ラベルおよび取扱説明書への影響を説明します。
(参考文献)
-
欧州委員会「CEマーキング」
https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/goods/ce-marking_en -
欧州委員会「新しい法的枠組み(NLF)
https://single-market-economy.ec.europa.eu/single-market/goods/new-legislative-framework_en -
EUR-Lex「EU製品規則の実施に関するブルーガイド2022」
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52022XC0629(04) -
EUR-Lex「製品の販売に関する共通枠組みについての欧州議会および理事会決定No 768/2008/EC」
https://eur-lex.europa.eu/eli/dec/2008/768(1)/oj -
EUR-Lex「認定および市場監視の要求事項を定める欧州議会および理事会規則(EC)No 765/2008」
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2008/765/oj -
EUR-Lex「市場監視および製品の適合に関する欧州議会および理事会規則(EU)2019/1020」
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2019/1020/oj -
EUR-Lex「機械に関する欧州議会および理事会指令2006/42/EC(機械指令)」
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/42/oj -
EUR-Lex「機械に関する規則(EU)2023/1230(2026年7月27日統合版)」
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:02023R1230-20260727 -
EUR-Lex「欧州連合の機能に関する条約(統合版)」
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:12012E/TXT
警告ラベル安全規格講座
-
第1回 製造物責任法(PL法)と警告ラベル -
第2回 製品に潜むリスクと警告ラベルの関係性(Part 1:残留リスク) -
第3回 製品に潜むリスクと警告ラベルの関係性(Part 2:リスクアセスメント) -
第4回 製品に潜むリスクと警告ラベルの関係性(Part 3:リスク低減方策) -
第5回 正しく伝わる警告ラベルのデザイン(Part 1:ラベルの構成要素) -
第6回 正しく伝わる警告ラベルのデザイン(Part 2:シンボルマーク) -
第7回 正しく伝わる警告ラベルのデザイン(Part 3:シグナルワード) -
第8回 正しく伝わる警告ラベルのデザイン(Part 4:文字メッセージ) -
第9回 正しく伝わる警告ラベルのデザイン(Part 5:フォーマット) -
第10回 警告ラベルの規格 (Part 1:各地の規格) -
第11回 警告ラベルの規格 (Part 2:JIS規格) -
第12回 警告ラベルの規格 (Part 3:SEMI規格) -
第13回 その他の安全ラベル(Part 1:EMO・電気設計・放射線) -
第14回 その他の安全ラベル(Part 2:レーザラベル) -
第15回 警告ラベルと取扱説明書の関係性 -
第16回 EU新製造物責任指令で見直される残留リスク管理